初めまして、ドイツ北西部の小さな町、オルデンブルクにあるCarl von Ossietzky Universität Oldenburg(以下:オルデンブルク大学)の大学院でスポーツ科学を専攻している山田翔 (カナタ) です。
2020年の今年はいよいよ東京オリンピックが開催されます。スポーツに興味がある方やスポーツ科学を勉強されている方、またそうでない方も母国で開催されるオリンピックに少なからず関心があるのではないでしょうか。
私も卒業後は、
今回は、ドイツの大学院1年目の私がなぜドイツでスポーツ科学を学ぶという決断に至ったのか、また普段どのような学生生活を送っているか、苦労や留学して良かったと感じたことなどをお届けしたいと思います。
この記事がこれからドイツの大学院でスポーツを専攻したい学生の皆様、また
「海外の大学で勉強するってどんな感じなんだろう。」
と大学留学に興味がある方の参考になればと思います。
ドイツの大学院で学ぼうと思ったきっかけから、実際に入学するまで

私がドイツの大学院でスポーツ科学を学ぼうと思ったきっかけは2つあります。
一つ目は「日本を飛び出して海外で勉強したい。」と思ったことでした。元々日本にいる間に学部卒業後の進路として大学院進学を考えていたのですが、
ふと、このまま2年間日本で勉強するだけでいいのか、と自分の将来をもう一度考えた時に、、、
自分の中でもっと勉強したい!海外に行って自分が体験した事のない文化や新しい価値観の中で研究をしてみたい!と考えるようになり日本の大学在学中に海外の大学院を志すようになりました。
ここまで読んでくださった方の中には「じゃあなぜドイツだったの?」と疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか。
ここに2つ目の理由があります。こちらの理由はもっと短絡的で、もともとの発端はサッカー(特にドイツのブンデスリーガ)に非常に興味を持っていて「ドイツに行ったらブンデスリーガが生で観戦できる!」と思ったことがきっかけです(笑)。
それまでドイツ語のドの字も触れたことがないような人間でしたが、これを機にドイツの大学の制度を調べるようになりました。
すると授業料(一部地域は有料)がかからないこと、勉強に専念できる条件が整っていること、またドイツは日本よりもスポーツが日常生活に根付いており、施設面、医療面などにおいても環境が整備されているということを知り、こういう国で勉強がしたいと思ったのがドイツに決めた理由でした。
こうしてドイツの大学院でスポーツ科学を学ぶことを決断しましたが、ドイツの大学院に入学するためにはまず大学院へ出願しなければなりません。
ドイツの大学院への出願方法ですが、直接大学院に出願する場合とuni-assistという機構を通して出願する場合の2通りがあります。
uni-assistは、大学の入学審査を代行する機関です。特に複数の大学に出願する学生にとって同じ書類を何度も送る必要がないので、出願手続きが非常に楽になります。
オルデンブルク大学の場合はuni-assistを経由するシステムで、私の場合、次の書類が入学に必要でした。
- 高校の成績証明書と卒業証明書
- 大学の成績証明書と卒業証明書
- ドイツ語能力の証明書
教授の推薦書は必要なく、ドイツ語能力の証明書も出願時点で既定のレベル(C1レベル)を満たしていなくても入学手続きまでに基準を満たせば入学できます。もし既定のレベルを満たせなくてもB1以上の証明書があれば大学附属の語学コースへの入学が認められそこから大学入学を目指す事もできます。
しかし大学院によっては推薦書、履歴書、志望理由書などが必要になったり、出願時点で既定のドイツ語能力を証明する必要があったり、附属の語学コースが開講されていない場合もあったりするので入学希望の方は大学院ごとの要項を必ずチェックしましょう。
特に高校の卒業証明書や成績証明書は大学院への出願であっても必要となるので注意しておいた方が良いと思います。(私は出願時に既にドイツに住んでいたのですが、高校の証明書が必要になることを知らず慌てて高校に連絡をして書類をドイツまで送っていただきました…。)
ドイツスポーツ科学を専攻する自分が送る大学院生活の日常
ドイツ大学院のスポーツ科学はどういった事を学べるのか?

「ドイツの大学院でスポーツ科学を学ぶ」といっても実際スポーツ科学という分野は多岐に渡っているので大学院ごとに特色があり、何を専門的に学べるのかは異なってきます。ここでは私の専攻を少し紹介したいと思います。
オルデンブルク大学のスポーツ科学部は4つの部門から成っていて、運動学、トレーニング科学、教育学、そして社会学の4部門があります。
私の通う専攻はスポーツ科学科( Institut für Sportwissenschaft )の中の「スポーツとライフスタイル(Sport und Lebensstil)」という専攻で、アスリートのコーチングやオリンピックなどの競技スポーツをターゲットにしているというよりかは、一般社会におけるスポーツの在り方、スポーツと日常生活の関係性などを主に扱っています。

私の専攻ではこのうち教育学を除いた3つの部門が基盤となっていて、バイオメカニクスや怪我の予防といった身体学的な観点、また「スポーツにおけるタレントとは何か」といった社会学的な観点や「ライフスタイルとは何か」といった文化的な観点からも研究がなされています。
大学院1年目の前期は自分の興味に応じてこれらの基礎的な概念を広く学習したり、論文の執筆や研究の際に必要となるデータ処理の仕方や研究の方法などを学んだりします。1年後期になると人文科学系の研究に進むか自然科学系の研究に進むかを選択することができ、実際に研究室に赴き研究をしたり、さらにゼミなどに参加して知識を深めたりしていきます。

また、この専攻の特色でもありますが最低90時間、4週間以上のインターン実習が義務付けられているので1年後期には多くの学生がインターンへ行くそうです。
さらに、スポーツ科学部以外の授業を選択して履修することも必修となっていて、スポーツに限らず様々な分野を自分の興味に応じて触れることができるのもこの専攻の特徴だと思います。
平日や休日の過ごし方

平日は授業がメインの生活をしていて、授業が終わった後は課題をやるために図書館へ行きます。
今期は授業自体は5コマしか取っておらず週3日授業があるだけなのですが、それに付随する課題が非常に多いので基本的には毎日大学にいて図書館に籠っています。
夜になると大学のカフェテリアが閉まってしまうのでできるだけ早く帰宅するようには努めているものの、遅いときは夜11時や12時前まで図書館にいて課題をしています。一人で課題をやることが多いですがたまに友達が一緒に勉強しようと誘ってくれるので友達と課題をすることもあります。
それ以外にも私は2人のドイツ人とタンデムをしているので週2回彼らと会ってドイツ語と日本語を教えあったり、大学で開講されているスポーツのコース(Hochschulsport)に参加してバレーボールやバドミントンなどを楽しんだりしています。
休日の過ごし方は様々ですが、平日のうちに課題が終わらなかった時は土日も図書館や家で課題を進めています。課題のない日は友達の家へ行って一緒に料理をしたり動画を見たり、夏には公園や海へ行って遊んだりもしました。
後にも書きますがドイツの大学院ではゼメスターチケットという州内の公共交通機関が乗り放題で利用できるチケットをもらえるので、一人でも友達とでもいろいろな場所に出かけて羽を伸ばす事ができます。

またオルデンブルクにはバスケットボールとハンドボールのプロチームが本拠地を置いています。
近くの町もサッカー日本代表でも有名な大迫勇也選手が所属しているヴェルダー・ブレーメン(SV Werder Bremen) というチームの本拠地があり、インターネットや当日券でチケットが買えれば試合観戦に行くことも可能です!
ドイツと日本の学生生活の違いと、ドイツの大学院を選択して感じた事
留学生が圧倒的に多い! そして多様な年齢、バックグラウンドを持つ人が通っている
ドイツの大学院を選択して驚いたことは、まず何よりも留学生、しかも正規留学生の数が日本と比べて圧倒的に多いことです。
昨年10月に入学式に参列したのですが、学長曰く、新入生のうち約20%が正規留学生だそうで非常にびっくりしました。
私の住んでいる学生寮ではドイツ人よりも外国人の方が多く、出身地もスロベニア、イラン、スペイン、シリア、中国、ブラジルなど世界各国から学生が集まっています。時々お互いの国の文化について話したりすることもあり、多様な文化に触れながら生活しているなと実感しています。
さらにドイツの大学院に進学して日本と違いを感じたことは学生の年齢層が幅広いということです。
日本の大学だと18歳から20代前半までの学生が大多数を占めるような印象でしたが、 授業を教えている講師より学生の方が年上ということも少なくなく、 ドイツの大学院は30代、40代の学生も珍しくありません。
ドイツの大学では学費がほとんどかからないため、新しい学問を学びたい学生や学びなおしたい学生が比較的簡単に進学を決断できるのが主な理由なようです。
また、様々なバックグラウンドを持つ学生が通っているのもドイツの大学院の特徴だと思います。私が通うスポーツ科学の専攻でも十人十色で、サーカスアートを大学で学んでいた学生や地学を専攻していた学生もいたりします。同じ授業を受けていても違った観点からの見方がきたりと非常に新鮮で刺激を受けることも多くあります。
一方、学業面のバックグラウンドだけではなく生い立ちや生活面での人それぞれで、移民としてドイツに渡ってきた学生や、既に結婚していたり子どもがいたりする学生も多く、本当に様々な学生が大学に通っているんだなと実感しています。
学業に専念できる(学生に優しい)環境

ドイツの大学院を選択してよかったことは、学業に専念できる環境が整っていることだと思います。特に実感するのは生活費用について考えたときです。
日本であれば生活費のためにアルバイトをしている学生が多いかと思います。私も日本の大学に通っていたときは頻繁にアルバイトをして生活費を稼いでいましたし、大学、アルバイト、サークルを両立させるために時間をやりくりするのが本当に大変でした。
しかしドイツでは自炊をすれば生活費が格段に安く抑えられることに加え(もしかしたらミュンヘンなど大都市では高くなるかもしれません…)、国から支給される学生ビザでは1か月に働けるアルバイトの時間が制限されているため働きすぎる事なく学業に専念できます。
私もドイツでもアルバイトをしていますが、週1回だけなのでそれ以外の曜日は思う存分課題や大学のことに集中できています。
以上の点が私が思うドイツの大学院を選択したときのアドバンテージです。

さらにドイツの大学・大学院ではゼメスターチケットという州内の公共交通機関が乗り放題になるチケットをもらえるので基本的に交通費への心配がありません。
気になった場所を訪れてみることもできますし、美術館や博物館の学割を利用して気分転換を図ることもできるのが大きな利点だと思います。
オルデンブルク大学のゼメスターチケットはオランダへも行けるのでそこが個人的に最も気に入っているところです。
大学の授業や実習を受けてみて、日本の大学とどう違うのか考えてみた

ドイツの大学と日本の大学を比較してみると、日本のシステムとあまり変わらない点とまったく異なる点の両面があると感じました。
ドイツの大学院では出欠を取ることがないので、授業に参加するもしないも完全に個人の自由です。
その代わりテストが一発勝負なのでテスト前になると多くの学生が図書館に来て朝から夜遅くまで勉強しています。
ここまでは日本もドイツも大きな差は無いように思われますが、ドイツでは3回同じ授業の単位を落とすと退学(救済措置として口頭試験が設けられる事もある。)になってしまうこともあるので、テストに懸ける情熱は日本よりも強いかもしれません。
また私の専攻では授業の登録とテストへの登録は別で行われるので、授業を受けてテストの受験を見送るという学生もいます。そのような学生はもちろん次の学期以降にテストを受験しなければならないのですが、合格するか不安な場合は持ち越すこともできます。この点は日本と大きく違う点なのではないでしょうか。

一方、授業に参加している学生は非常に積極的に授業に参加しているのもドイツの特徴かと思います。
私の通う専攻では授業は全てゼミ形式なのですが、先生の問いに対して必ず誰かが発言しますし、疑問点や意見などがあれば迷わず質問をします。
時には喧嘩してるのではないかと思うくらい白熱した議論を展開させたりしています。
日本で講義形式の授業が大半を占めていた私にとって、先生の発言に対して質問をぶつけたり自分の見解を伝えたりするというスタイルは非常に新鮮で、日本の授業体系と最も大きく異なる点なのではないかと思います。
これだけは伝えておきたい、ドイツの大学院に通う中での苦労
ドイツ人はオン・オフがはっきりしている
ここまでドイツの大学院で学んできてやりがいを感じたことを書いてきましたが、やはり苦労は付き物です。特に苦労していることの一つとして挙げられるのは「ドイツ人はオン・オフがはっきりしている」ということです。
例えば授業の課題としてグループワークや発表を課されているとき。締め切りや発表日の1週間前を切ってから初めて取り掛かることは珍しくなく、その代わり取り掛かるとなったら非常に集中して取り組み2日3日で完璧に仕上げてしまいます。
日本でスポーツ科学を学んでいたときには2週間前などから徐々に準備を始めていき締め切り前日には内容を完成させていることが大半だったため、彼らの集中力に脱帽する一方で、テンポを合わせるのに最初は非常に苦労しました。
また授業だけに留まらず、大学院の学務課や外国人局などに用事があるときもドイツ人はオン・オフがはっきりしているなと感じることがあります。
たとえ急を要することで連絡をしても
「担当者が休暇中なので早くて3週間後の対応になる」
と言われたり
「それは私の管轄外なので別のところへ尋ねて」
と突っぱねられたりすることは日常茶飯事です。
一概には言えませんが、やるべきとき(やるべきこと)はやる、やらないときはやらないとすみ分けをはっきりさせているのはドイツ人の国民性なのかなと思います。解決策として諦めずに粘ったり早め早めに準備をしたりすることで今のところは別段大きな問題もなく過ごせていますが、これがドイツに来て一番苦労していることだと思います。
英語はできて当たり前
私がドイツでの学生生活で苦労していることはもう一つあります。それはドイツ人にとって「英語はできて当たり前」ということです。
ドイツ人の英語のレベルは非常に高く、ネイティブスピーカーまではいかなくてもそれに近いレベルで英語を話し理解することができます。ですので次の授業までに読んでこなければならない数十ページの論文が英語であることや、突然先生が「今日の内容は英語の専門用語が多いので最初から英語で話します」ということも少なくありませんし、ドイツ人はそれを余裕でこなしてしまいます。
私はドイツ語を勉強している間ほとんど英語に触れなかったのでドイツ語ほど英語が得意ではないということもあり、この時には授業の内容についていくのに特に苦労するので日本にいる間にもっと英語を勉強しておけば良かったなぁと後悔しています。
たとえ入学条件に英語レベルの指定がなかったとしても、学業面、特に大学院においては「英語はできて当たり前」という認識の下進んでいくことがあるのでドイツ語はもちろん、英語もある程度のレベルを習得しておくことを強くおすすめします。
これからドイツで学びたい人へ

ドイツの大学院に通うことは楽しいことや学びも多い反面、同じ数だけ苦労も絶えないと思います。
しかし個人的にはドイツに来て本当に良かったと思っています。なので学業に集中して取り組みたいと思っている学生の方の留学先としてドイツは強くおすすめです。
それはもちろん学業に専念できる環境が揃っているからということもありますが、学業以外の日々の生活の中でも小さなことに対して多くの刺激や発見があり非常に充実した、楽しい毎日を過ごすことができるからです。
もちろん海外で生活している以上、いい意味でも悪い意味でも文化の違いやコミュニケーションに最初は戸惑い、苦労することもあるかもしれません。しかし課題や問題を一つ解決するごとに自分が一歩成長できたと実感することができますし、落ち込んでも次はもっと上手くやってやろうという原動力にもなります。
この記事が日本から一歩出てスポーツ科学を学んでみたいと考えている学生の皆様にとって参考になれば嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
著者:山田翔(instagram)/編集:井上誠志(twitter)
こんにちは!
記事を読ませていただきました。自分もサッカーをやりに2年半ドイツに住んでて、今日本に戻ってドイツの大学に入学することを目標にしているのでとても参考になりました。ドイツでの苦労を知っているのでかなり共感できました
これからも大変だとは思いますが頑張ってください!応援しています!